大阪の歯科医院で定期健診を受けている 40 代の佐藤さんは、「入れ歯より自然な歯が生えれば」とつぶやく。日本では約 200 万人が先天的な歯の欠損に悩み、高齢者の約 7 割が後天的な抜歯経験がある。近年話題の「歯の再生技術」は、単なる夢物語ではなく、日本の研究チームによる実証研究が進んでいる。

(本物の歯と入れ歯のどちらが良いですか? Quang Tri Nguyen/Unsplash)
一、技術の核心:USAG-1 阻害による再生メカニズム
2007 年、大阪北野病院の研究チームが USAG-1 タンパク質の抑制がマウスに追加の歯を生やすことを発見したのが始まりで。同タンパク質は歯の発達に必要な BMP・Wnt シグナルを阻害するため、単クローン抗体「TRG035」で中和することで再生を誘導する原理が確立。京都大学の研究では、先天的歯欠損マウスに抗体を投与すると 82% の確率で正常な歯が再生し、ヒトの歯構造に近いフェレットでも「第三の歯」の萌出が確認された。
二、臨床試験の現状:2024 年から始まったヒト臨床
2024 年 9 月、大阪北野病院で TRG035 の第 Ⅰ 相臨床試験が開始され、30 名の 30-64 歳男性を対象に安全性を評価中である。2025 年には第 Ⅱ 相試験に進み、2-7 歳の先天的歯欠損児 100-300 名を対象に有効性を検証する計画が明らかにされている。厚生労働省の再生医療審査プロセスに則り、順調であれば 2030 年ごろの上市が見込まれる。
三、適用対象と今後の展望
現在の技術は先天的歯欠損者を優先対象とするが、将来的には牙周病や虫歯による後天的欠損、インプラント失敗例にも適用可能と研究チームは展望している。ただし、既存インプラント使用者は歯槽骨構造の変化から適用が難しい場合があることに注意が必要。Toregem Biopharma によると、再生歯は神経や血管を備えた天然歯に近い機能を持ち、インプラントの 3 分の 1 以下の費用で提供可能になる見込みだ。












